バフェットの成功は”たまたま”なのか?|名著『まぐれ』と生存者バイアス

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SNSを見ていると爆益報告が嫌でも目に入り、メンタルがやられてしまう事がある。そんな時僕はこう思うようにしている。

「彼らはたまたま勝っただけだ」

『ブラックスワン』で有名なタレブ氏のもう一つの名著『まぐれ』では、常勝している多くのトレーダーに対し「運を実力と勘違いしているトレーダー」だとし、それはただの生存者バイアスだと指摘している。

ということで、今回は紹介するのは数理系トレーダーにして大学教授でもあるナシーム・ニコラス・タレブ著の『まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』だ。

目次

常勝トレーダーは生存者バイアスである

生存者バイアスという言葉知っているだろうか?

生存者バイアスとは?
成功して生き残った人だけが目立つため、実際には多くの失敗者が淘汰されていることを見落としてしまう認知の歪みのこと

トレードで言えば、SNSで爆益報告してる人たちは「たまたま勝って生き残った人たち」で、その裏には退場していった無数の負けトレーダーがいる。でも退場した人たちはわざわざSNSに現れて爆損報告なんかしない。ちなみに、爆損報告をする人でさえ長期で勝っている生存者バイアストレーダーであることが多い。

つまり、SNSは生存者バイアスが強烈に掛かった世界なので、あたかも勝っているトレーダーが多数で負けているトレーダーが少数のように見えてしまう。

常勝トレーダーの作り方

何百人ものトレーダーを集め、一定の期間ごとに成績の悪いトレーダーを解雇し、優秀だったトレーダーを厳選していくと最終的にはもっとも優秀なトレーダーを見つけることができる。
でも果たしてそのトレーダーは本当に優秀なトレーダーだろうか?

残念ながら、それはただその期間で運が上振れただけの人間の可能性が高い。

売り買いボタンの前にサルを置き、でたらめにトレードさせても最も成績のよかったサルを選別しても同じく常勝サルトレーダーを見つけることができるが、そのサルが優秀なトレーダーでないことは誰にでも理解できるだろう。

バフェットの成功さえもまぐれ?

もっというと、その集団の母数が多いほどリターンのハイスコアが出る可能性が高い。

もしバフェットの成功が「たまたま」なら、これまで何億と存在してきた投資家の中でもっとも上振れた存在ということになる。バフェットが実力か運かはさておき、長い人類史の中で一人くらいは強烈な運の上振れが起こって、桁違いに成功する人間が必ず出てくることは理解しておきたい。

個別の成功者を神格化するより、『大数の法則の中でたまたま飛び抜けた事例』として見るくらいがちょうどいいのだ。

バフェットの成功が「たまたまではない」のだとしたら、彼は偶然を味方につける“構造“を作ったといえる。それこそが投資家としての実力なのではないだろうか。

ポートフォリオの損益はなるべく見ない方がいい

ポートフォリオを覗く期間を短くするほどリスクを観察することになる。それはボラティリティを観測しているだけになるので期間はできるだけ伸ばした方がいい。

平均的な損失で人が感じる苦しみは、同じだけの利益で人が感じる喜びの2.5倍の衝撃力を持つ。これはプロスペクト理論として知られている。

つまり、ポートフォリオを覗いたときの損と利益の表示確率が1/2(上下のボラティリティ)だった場合、見れば見るほどメンタルはマイナスになるということ。

この2つが相殺して決してゼロになることはないので、見れば見るほどメンタルを消耗するだけである。

本物の投機家が持つ特徴。彼らは一切のためらうことなく意見を変えることができる

ソロスのような本物の投機家はどれだけ強い信念を持っていても、それを一切のためらいもなく瞬時に意見を変えてしまうらしい。

過去の選択や決定が、現在の状況や将来の選択肢に制約を課す現象を「経路依存性」というのだけど、彼らの特徴としてこの経路依存性がみられない。

彼らは過去の行動からまったく自由である。毎日がまったく新しい状態で始まるのだ

今の価格でも買いたいか?そうでないなら、あなたはポジションと結婚している

あなたに経路依存性があるかどうか確かめる簡単なテストが面白かったので引用しておく。

二万ドルで買った絵があり、芸術品市場の状態が良かったおかげで、今では四万ドルになっているとする。もしも絵を持っていなかったとしたら、あなたは今の価格でもその絵を買うだろうか?もし買わないなら、あなたはポジションと結婚してしまっている。

今の市場価格で買いたいと思わないなら、そのポジションを持ち続ける経済的な理由はないということだ。

また、下手なトレーダーの特徴として「下手なトレーダーはポジションより先に奥さんと離婚する」という面白い例えもあった。

正しくトレードできる人は突然変異である。

本書の最終章ではトレードで合理的な判断を下すことがどれだけ難しいかを説いたうえで、感情や心理に左右されず合理的に正しくトレードできる人は突然変異だと述べている。

それほど人間の本能に抗うのは難しいということだ。

書評

この本ではこの世界は自分たちが思っているよりも「偶然」の要素が多く、能力が果たす役割は小さいということを教えてくれる。
投資やトレードなど不確実性が高い事に関してはなおさらだ。そしてその結果は偶然によってかなりのバラツキがでる。そのバラツキによって資産を吹き飛ばさないようにリスクをコントロールすることが大事だ。

現実世界ではリスクを正確に把握することはできないし、オッズを計算することもできない。だからこそ「ブラックスワン(稀な事象)」に備えることがトレーダーとして生き残るうえで必要なのだ。

それでも僕たち人間は運を実力と勘違いし、ときどき合理的ではない判断を下してしまう。

でもこれは仕方のないことで、僕たちにできるのは人間はそういうものだと理解し、できるだけ合理的な判断が下せるよう「規律」を作り、意思決定のハードルを下げバイアスが介入する余地をなくすしかないのだ。

どれだけ賢い判断をしようとも、結果を決めるのは結局運だ。

だからこそ一喜一憂せず、今日も淡々と優位性を積み上げていこう。

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