中国古典の中でも最も有名かつ最も優れた戦術書「孫氏の兵法」、解説動画や解説書籍は今まで何度か見たことがあって理解した気になったんですが、やっぱり原典よりのものを自分で読まないとダメだよなぁって事で、今回は岩波文庫さんの『孫氏』を読んでみました。
きっとトレードに活かせる読書体験になるはずです!
『兵は詭道なり』
「戦争とは騙し合いである」という孫氏の兵法の中でも最も有名な言葉の一つです。この教えは対人の勝負事においては、いかにして相手の虚を突く(搦め手を使う)かが重要かという事を説いてくれています。
- 自分の方が強くても弱く見せる
- 自分の方が多くても少なく見せる
- 実は近くまで来ているが遠くにいるように見せかける
- 仲間の親密度が良くても仲悪く見せる
- 充実しているなら防御に徹する
- 相手が楽しているなら疲弊させる
- 相手が親しみあっている時は仲違いさせ分断させる
敵情に合わせて柔軟に立ち回りを変えることが重要です。
忘れがちではありますが、トレードや投資も相手の顔が見えないだけでバリバリの対戦ゲームです。相手のオーダーや資産がくが見える仮想通貨市場においては、この教えがより大きな意味を持ちそうです。
『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』
これまた有名なことば。敵の内情を知り、自分たちの内情も完璧に把握できていればまず負けないという教え。
内情とは兵力や弱点などあらゆる情報のことをいう。また、敵だけでなく『味方(自分)』への理解も重要。
トレードでいえば、どこまでの損失ならメンタルが持つか?や性格や資金力などによって戦略が変わってくる。
孫子が『敵』ではなく、あえて『彼』としているのは『第三勢力』を視野に入れているからかな?
いざ戦を初めても疲弊したところを第三勢力に突かられてしまつと負けてしまう。
そういった可能性の検討も『彼を知る』に含まれていると思う。
まぁつまり、『使える情報は全て使え』という事だ。
仮想通貨ならオンチェーン情報を使えと言うことに繋がる。
オンチェーン情報によって「キャッシュフローや相手のトークン占有率などあらゆる受給情報が完全に分かっている万全のトレーダー」と、「何も分かっていないけど上がりそうだから買うトレーダー」が繰り返し取引をしたならその結果は明らかだろう。
「戦わずして勝つ」
孫氏の核のひとつ。
強敵に挑み勝ってもそれは上策とは言えない。というのも、その戦で勝ったとしても自軍の戦力は減少し、捕虜や食料にできるはずだった敵軍の資源も減少してしまう。
最も上手い勝ち方は戦わずして勝つことである。こうすることで、最小の被害・最高の利益を得ることができる。
トレードや投資においては、まずリスクを取って戦う(エントリー)ことをしなければ利益にはならないわけですが、できるだけ無理な勝負を避けることはできそうです。
たとえば
- 待つことの重要性: 優位性のある明確なセットアップが来るまで待つ
- 無駄なトレードを避ける: 確信のない取引は見送る勇気
- 無理なトレードを避ける: リスクリワードが良い条件で戦える場を選ぶ
リスクリワード比の良いトレードを選ぶことで心理的負荷や負け時の損失を減らすことができるし、確信の持てないトレードを避けることで良いメンタルを保つこともできます。
言い換えればできるだけ勝てる時にだけトレードしようという事ですね。
『兵は拙速を聞くも、未だ巧久を見ず』
「拙速」状況が悪くて素早く切り上げるというのはよくあるが、「巧久」上手いから長引くという例はない。
トレードや投資において、良いトレードは含み損の状態が短いことが多いです。逆に言えば含み損の状態が長く続いているのなら結果に限らず少なくとも良いトレードではないと言えます。エントリーした瞬間から含み損が発生しなかなか建値まで戻ってくれないときは素早い損切り、すなわり「拙速」が求められます。
もちろん、損切を最小限にして長期保有によって含み損を耐えて大きな利益をだしたりする戦略はありますし、長期投資ではそれが有効であることも分かっています。
とはいえ、素早い損切の良いトレードはあるが、含み損が長くて良いトレードはないというのは心に留めておきたいですね。
『勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求む』
勝利の軍はまず勝利を得てから戦争を仕掛けようとするが、敗軍は負けてから勝つ方法を探した。
昔の戦いが強かった人は、まず防御を固め誰にも打ち勝てない態勢を整えたうえで、敵が弱点を表してだれでも打ち勝てるような状況になるのを待ったそうです。
つまり、勝てるのが分かった上でのみ戦いを挑んでいたんですね。
逆に弱い人はまずは戦を起こしてその中で試行錯誤して勝とうとするそうです。これだと勝ち筋を見つけるまでのリソースが無駄になり勝率は低くなる。強い人のように明確な勝ち筋を持って戦を始めた場合は、初めから目標に向かってリソースを効率よく割くことができる。
トレードや投資では「絶対」はないが「絶対に近い」状況というのは度々あります。そういう場合は利益が小さいことが多いですが極論その時だけ取引をしていれば負けることはありません。
また、入念に検証・バックテストを行って優位性があることが分かっているトレードロジックでのみ取引をするといったことが大事であることもこの教えから得ることができます。
絶対は無理だとしても「勝てる自信のある時」「リスクリワードが極端に良い時」などに絞ってトレードすることが良い戦略であることは疑いようがありません。
また、強い人は普通の人には見つけれないような「勝てる機会」をみつける事に非常に長けていたようです。
仮想通貨やトレードにおいて裁定機会や有効な指標など勝てる状況、いわゆる『エッジ』を見つけるのが上手い人だと言い換えれば納得がいく。多くのトレードチャンスを見つけれるようにより多くの経験を積みたいですね。
『正を以て合い、奇を以て勝つ』
孫氏は、戦争は定石通りの正攻法で負けない状態を作ってから敵と対峙、情況の変化に適応した奇法で打ち勝つといいます。
「まずは定石を抑えたうえで、その情況に合わせた特殊な手法を使って勝つ」という解釈をしました。
投資やトレードにおいても定石となる戦略や行動はあります。トレンドフォローや積み立て投資など広く知られている定石を抑えたうえで、○○ショックの時にだけリバウンドを狙うなどの奇法を使うというのがしっくりきます。
斜に構えすぎて、いきなりオリジナルのトレード手法を編み出そうとするのではなく、まずは投資の格言や古くから知られている原則や戦術などをしっかりと理解・実践したうえで、その時々の状況に適した行動を取ろうということですね。
まとめ
孫氏の教えをまとめると
- 守りを固め、チャンスを待ち、勝てる状況でのみ戦え!
- まずは基本を抑え、それから状況に適した搦め手を使え!
- すべての情報を使いこなせ!
- チャンスを見出す力を養え!
孫氏の兵法の本質は「できるだけ戦いを避け、勝てるときにだけ戦い、最小の被害、最小の攻撃で打ち勝て」ということなのでしょう。
もっとギュッとすると「無駄なトレードを避け、じっとチャンスを待てという事です。」
感想
孫氏の兵法は紀元前500年中国春秋時代後期の書物ですが、現代においても応用できることが多くとても楽しく読ませてもらいました。
今回はトレードや投資という視点で読んでいたのですが、ビジネスやスポーツ、ゲームなど様々な視点で読むことまたで違った知見が得られそうな人類史に残る究極の名著ですね!
今回読んだ岩波文庫さんの『孫氏』原文→解説の順で書かれており非常に読みやすく、ボリュームもそんなに多くないので気になる方は是非お気軽にお手を取ってみてください!おすすめです。

